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体内のカリウム 40 の放射能

きくまこ先生(サイバーメディアセンターの菊池誠教授)が「K40は体内に常に4000Bqある」とおっしゃられていた(https://twitter.com/kikumaco_x/status/220397577697374209)ので、本当にそうなるのか計算してみた。 結論は、男性はそれくらいで、女性はその 2/3 くらいになる。

導出

ICRPBasic Anatomical and Physiological Data for Use in Radiological Protection Reference Values[1] によれば、体内の総カリウム量(total body potassium;TBP)は 20 歳過ぎをピークとして、以後だんだん下がっていく(73 ページの図 4.12)。これには性差があり、男性はピークで \(1.5 \times 10^2\ \mathrm{g}\)、以後の平均で \( 1.4 \times 10^2\ \mathrm{g}\) くらい。女性はピークで \(1.0 \times 10^2\ \mathrm{g}\)、以後の平均で \(9 \times 10\ \mathrm{g}\) くらい。

カリウム放射性同位体には質量数 40 の 40K があり、存在度は 0.0117%[2]。これを体内の総カリウム量に乗ずると、体内の総 40K 量は

男性(ピーク)
\(1.5 \times 10^2\ \mathrm{g} \times 0.0117 \times 10^{-2} = 1.755 \times 10^{-2}\ \mathrm{g}\)
男性(平均)
\(1.4 \times 10^2\ \mathrm{g} \times 0.0117 \times 10^{-2} = 1.638 \times 10^{-2} \mathrm{g}\)
女性(ピーク)
\(1.0 \times 10^2\ \mathrm{g} \times 0.0117 \times 10^{-2} = 1.17 \times 10^{-2} \mathrm{g}\)
女性(平均)
\(9 \times 10\ \mathrm{g} \times 0.0117 \times 10^{-2} = 1.053 \times 10^{-2} \mathrm{g}\)

「田崎本[3]」によれば、1 Bq は 質量  m_\mathrm{B} / \mathrm{g} = 2.40 \times 10^{24}\ \mathrm{mol\ g^{-1}} \times \tau \times M と対応する。ここで、\tau / \mathrm{sec}半減期、\(M / \mathrm{g\ mol^{-1}}\) は質量数。40K は  \tau = 1.28 \times 10^9\ \mathrm{y}、\(M = 40\ \mathrm{g\ mol^{-1}}\) だから[3]

\[ \begin{align} m_\mathrm{B} &= 2.40 \times 10^{24}\ \mathrm{mol\ g^{-1}} \times \\ &\quad (1.28 \times 10^9\ \mathrm{y} \times 365\ \mathrm{d/y} \times 24\ \mathrm{h/d} \times 60\ \mathrm{min/h} \times 60\ \mathrm{sec/min}) \times 40\ \mathrm{g\ mol^{-1}}\\ &= 3.875 \times 10^{-6}\ \mathrm{g} \end{align} \]

あとは比例計算で放射能(Bq)を求めればよい。

男性(ピーク)
\(\frac{1.755 \times 10^{-2}\ \mathrm{g}}{3.875 \times 10^{-6}\ \mathrm{g}} \times 1\ \mathrm{Bq} \approx 4.5 \times 10^3\ \mathrm{Bq}\)
男性(平均)
\(\frac{1.638 \times 10^{-2}\ \mathrm{g}}{3.875 \times 10^{-6}\ \mathrm{g}} \times 1\ \mathrm{Bq} \approx 4.2 \times 10^3\ \mathrm{Bq}\)
女性(ピーク)
\(\frac{1.17 \times 10^{-2}\ \mathrm{g}}{3.875 \times 10^{-6}\ \mathrm{g}} \times 1\ \mathrm{Bq} \approx 3.0 \times 10^3\ \mathrm{Bq}\)
女性(平均)
\(\frac{1.053 \times 10^{-2}\ \mathrm{g}}{3.875 \times 10^{-6}\ \mathrm{g}} \times 1\ \mathrm{Bq} \approx 2.7 \times 10^3\ \mathrm{Bq}\)

したがって、「K40は体内に常に4000Bqある」はほぼ妥当。女性はそれの 2/3 くらい。

M. S. Abdel-Wahab[4]アブストで「典型的な 70 kg の男性には約 140 g のカリウム(そのうち 3710 Bq の 40K)が含まれている(Chao-Yeh Lan, 1989)」と書いてあったので、現実でもおそらく妥当なんだろう。ちなみにその論文の実験では体重を関数とした TBP の回帰式が求められていて、

TBP/g = 1.75 × 体重/kg + 67.4

だとか。この式から体重を求めると、

男性(平均)
\(\frac{(1.4 \times 10\^2 - 67.4)\ \mathrm{g}}{1.75\ \mathrm{g\ kg^{-1}}} \approx 41\ \mathrm{kg}\)
女性(平均)
\(\frac{(9 \times 10 - 67.4)\ \mathrm{g}}{1.75\ \mathrm{g\ kg^{-1}}} \approx 13\ \mathrm{kg}\)

とちょっと恐ろしいことになるが、この実験では「(1970 年に ICRP が出していた値より)TBP が多かった」らしいので、そんなに問題はなさそう。

参考文献

  1. ICRP (2002), Basic Anatomical and Physiological Data for Use in Radiological Protection Reference Values. ICRP Publication 89. Ann. ICRP, 32(3-4).
  2. 国立天文台編「理科年表 平成19年(机上版)」(2006)
  3. 田崎晴明「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識(2012年7月19日版)」(2012) http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/radbookbasic/
  4. M. S. Abdel-Wahab et al. (1992), A Simple Calibration of a Whole-body Counter for the Measurement of Total Body Potassium in Humans, Appl. Radiat. Isot., 43(10), 1285-1289.

アイキャッチ画像について

By Greg Robson (Application: Inkscape) [CC-BY-SA-2.0-uk], via Wikimedia Commons.